中間管理層の、「指示待ち」、「主体性の低さ」を最大の課題と認識。調査結果も、こうした懸念が現実であることを示す結果となった。しかし、その原因を分析すると、会社情報の浸透や権限委譲が不十分なことから、彼らが「否応なく」受け身の姿勢をとっていることが明らかとなった。すなわち、「従業員の問題」と認識されていたことが、実は多分に「会社側の問題」であったことが明らかとなった。この結果を受けて、会社が目指す方向や社会から得ている評価を周知するべく会社教育の充実化を行うことや、また「大事な仕事を上層部が全て行ってしまう」という既存体制からの脱却を提案。その後、努力が奏功し、従業員の主体性にも改善が見られるようになってきた。ただし、この種の問題は、総経理などの日本人出向者が変わるたびに振り出しに戻ってしまう危険性があるため、定期的に意識調査を行いながら現状把握を続けていくことが求められる。
従業員の離職に悩む。しかし、給与を大幅に引き上げた後も離職率に改善は見られなかったことから、真の原因を探るべく調査を実施。相関分析など因果関係を明らかにする分析の結果は、特に人間関係の悪さが高い離職率の原因であることを示していた。さらに、自由回答に上がった声には、上司の部下に対するイジメや嫌がらせが、特に離職率の高い特定部署で横行していることが明らかとなった。こうした現場の悲鳴は、既存の管理層に頼るだけでは上層部まで上がってこないので、多くの場合、意識調査を行うことで初めて認知できる。また、意識調査を定期的に行うことで、「会社が現場の不正に目を光らせている」というシグナルとなり、従業員の規律を保つことができる。「イジメや嫌がらせが日々の活動にどのようなデメリットをもたらすのか」といったテーマを中心に従業員のモラル教育に力を注ぐことや、従業員の不満をタイムリーに吸い上げられるよう、コミュニケーションの時間を増やすことなどを提案。その後、従業員の態度にも落ち着きが見られるようになり、定着率にも改善が見られるようになった。
モティベーションを高めるべく人事評価制度の改編を望んでいた。具体的には、処遇に大きく差がつくような「成果主義」を導入して「アメとムチ」で従業員のヤル気を引き出すことを計画していた。しかし、「従業員の声を把握した上で、できるだけ反発が生じないような制度改変を行うべき」という弊研究所の提案に賛同し、調査に参加。第1回目の調査結果からは、会社側の意図に反し、従業員の多くが「過度に処遇に差がつく制度」を敬遠していることが明らかとなった。そのため、処遇における差は適度に抑え、代わりに評価者教育などの運用に力を入れた。その結果、第2回目の調査では従業員の人事制度に対する納得感が向上するとともに、モティベーションにも改善が見られた。人事評価に限らず、制度改変に際しては、事前に意識調査を行うと良い。一人でも多くの従業員に「皆で決めた」という意識を持たせれば、新しい制度は受け容れられ易いからである。しかし、第2回目の調査では、特定の部署や職位では新制度への理解が十分でないことも明らかとなり、調査への参加を定期的に行いつつ、制度の一層の定着に向けて努力している。
合併に伴う旧会社間の軋轢を懸念して調査を実施。その結果、合併した会社側(旧D-a社)の従業員が高いモティベーションを持てていたのに対して、合併された会社側(旧D-b社)の従業員が、会社上層部に不信を強め、その結果モティベーションも低水準に陥っていたことが明らかとなった。実は、会社上層部は、こうした事態をある程度まで予想し、旧D-b社の従業員の反発を避けるべく急進的な制度変更を避けていた。例えば、人事評価制度については、当面、主に旧D-b社で用いられていたものをベースにしていくことを決め、実践していた。こうした配慮には、旧D-a社の従業員よりも、旧D-b社の従業員のほうが人数が多かったことが背景としてある。しかし、会社上層部の努力は実らず、旧D-b社の従業員は否定的な態度を強めていた。調査後、回答傾向や自由回答を丁寧に読み込んだ結果、会社上層部、特に日本人経営陣の顔触れが合併前後で入れ替わった際、合併前の旧経営陣が行ってきた些細な行為の積み重ね(日頃から従業員とコミュニケーションをとる、など)が一気に減退し、「自分たちのやり方が蔑ろにされている」と受け留めた従業員が多かったことが、旧D-b社の低いモティベーションの主な要因であると判断。制度改変の前に、まずは信頼関係づくりから始めるべきことを提言した。その後、地道な努力により、旧D-b社の従業員の意識にも改善が見られるまでに至っている。
急激に規模が拡大した会社。従業員の管理に限界を感じ、調査を実施。労働時間、および人間関係への不満が極めて大きいという結果となった。しかし、経営陣にとっては意外であった。休憩時間は他企業並に設けているからだ。変数間の因果関係や自由回答に上がった声を丁寧に読み込んだ結果、人数が拡大する一方で食堂などのインフラが追い付かず、並んだり席を待つ時間が増大したために、彼らの「実質的な休憩時間が不当に奪われている」という否定的な意識を形成していたことが明らかとなった。さらに、問題は複合的であった。休み時間が短くなったことで、彼らは急いで食事を済まさなければいけなくなり、結果として作業中に腹痛を訴える従業員が増大した。しかし、中間管理層はそうした事態にどのように対応するべきかという教育を受けていなかったために、腹痛を訴える従業員を「仮病」と決めつけ、作業を続行させていた。その結果、上下の人間関係が悪化し、下層従業員の不満に拍車をかけていた。その後、インフラ面の拡充、また、病人に対する対応の仕方を教育することで、離職率や生産性にも改善が見られ始めている。